有楽町のショッピングビル前で、私たち夫婦は「彼」を待っていた。約束の時間ピッタリに、私たちより早くこちらを見つけた「彼」は人懐っこい顔で近づいてきた。お互い「やあやあ」といった感じで笑顔を交わすと、彼は「顔、わかるものですね」と言った。彼と会うのはその日が二度目。初めて会ったのはこの夏の、京都・祇園白川のおばんざい屋でだった。
夏に大阪の夫の実家に行った私たちは、ついでに京都をぶらぶらすることにした。たま~にしか寄らない京都だが、夜は必ず決まった店で飲んで食べて帰ることになっている。その店が白川沿いにあるしもた屋風の小さな店で、夫が若い時分から行っているというところだった。数年ぶりの来訪だったが、私たちはその日もまるで常連のように、店の戸を明けた。
戸を開けるとすぐ前がカウンターで、テーブルは端に一つしかない。勝手知ったる店のカウンターに座り、お酒とおばんざい数種を頼んですっかり「京都気分」を満喫しているところ、一人で入ってきたのがその「彼」であった。
彼が来る前は、先客に霊場巡りが趣味という夫婦がカウンター奥に座っていて、その夫婦と御朱印帳の話と横浜の話で盛り上がった。たまたま出会った人たちと話をするのは面白い。ダンナさんは横浜に住んでいた時期があるそうで、京都で横浜の話をするとは不思議だったが、私の知らないこともよく知っていて感心してしまった。
とっても明るい御朱印夫婦が帰ってしまうと、店は急に静かになってしまった。私の隣に座った彼は物静かで、割烹着を着た女子大生のアルバイトが「このお店のにしん、おいしいんですよ」などと彼に話しかけていた。
彼は出張で東京から京都に来たという。京都らしさのある店で一人で入れるところをとホテルに聞いたら、この店を紹介されたのだそうだ。有能なアルバイトぶりを発揮する女子大生の導きで、箸を進めながら静かにお酒を飲む彼と、私たちはいつのまにか会話を交わしていた。気心がだんだんしれてきて、最後には気が向いたら東京で飲みましょうと名刺交換をし、すっかり楽しい気持ちでデキあがって私たちは店を後にした。
それから二か月ほどして、彼からメールが来た。「先日、再度京都のお店に行きまして、楽しい時間を過ごしたことを思い出して、、、また機会があればお会いできればと思います。」
こちらもメールしようかなと思ってはいたのだが、酒の席でのことである、シラフになってみればウザイと思われるかもと、控えてしまっていたのでる。
というわけで東京で飲むことになり、先日の再会となった。あのときカウンターメインの小さな店で盛り上がったので、今回も小さな店、いやそれどころかめちゃくちゃディープに有楽町のガード下の店に行くことにした。二度目の出会いは一度目以上に盛り上がった。彼は京都の何倍も喋った。彼の体験話があまりに面白すぎるので、私たちはひたすら聞いてしまい、お酒も肴もいつも以上に進んでしまった。
もう、すっかり友達である。なんだかずいぶん前から友達のような気分さえする。知らない人といきなり友達になることなんて、現代ではそうそうないと思っていたけれど、あるんですね。「袖振り合うも多生の縁」と言うが、飲み屋のカウンターで「並んで座るも多生の縁」かもしれない。そして私たちは、彼と忘年会しよう!と次の再会を約束したのだった。

